実験・臨床試験のエピソード

『よみがえる黒髪』より

実験のエピソード・その1

ウサギを使っての毛周期変換試験をしている時、ウサギを屋上で飼っていました。時期は真冬、「こんなすばらしい実験結果を出してくれる“ウサギ様”を、この寒空に戸外で飼育するのは誠に申し訳ない」と、ウサギ小屋を暖房の効いた暖かい室内に移動しました。ところが暖かい部屋に居たのでは休止期ばかり長びいて、いっこうに(成長期に入らず)実験結果が出ないのです。「やっぱり“ウサギ様”には寒さに耐えてもらうしかない!」ということになり、彼らには寒風吹きすさぶビルの屋上で、ひたすら耐える試練の日々がまた、始まったのでした。つかのまの休息でスミマセンでした!

実験のエピソード・その2

ウシの毛を使った実験をしようということになり、牧場主にウシを一匹借りました。背中の毛を半分ほど抜き、実験終了。お礼に心付けを渡して帰ろうとしたのですが、牧場主の様子がどうもおかしい。首をひねり、何やらチョッピリご機嫌ナナメ。「こんなことされるなんて聞いとらん。これじゃ、ウシがストレスでまいっちまう。かわいそうに、うまく育つかどうかも分からん」とゴネられ、ウシ一頭分の謝礼(お詫び)を要求されてしまいました。こちらもそれなりに反論したのですが、「獣医のワシがいちばん詳しい!」の一点張り、結局三十万円を取られてしまったのです。トホホ・・・・・。

実験のエピソード・その3

毛の細胞培養は、とてつもなくデリケートな実験です。わずかなショックや不注意ですべてが水の泡、なんてことはしょっちゅうでした。その度にまた新しい実験用の毛髪が必要になるのです。研究員のボランティアに順番に毛髪を提供してもらい、一度に百本程度の毛を抜くのですが、中には頭髪十〜二十本に一本ぐらいしか毛包(細胞培養に使用する白い部分)が付いていない人もいました。「もう一本、これもダメ! もう一本、エッ、またかいな!」と皆で抜いているうちに、結局千五百本も抜いてしまったのです。床には黒い毛が山のように積もり、本人も周囲も唖然としました。普通なら百本も抜けば必要な数の“毛包付き毛髪”が得られるのに、この人の場合は十五倍も抜かなければならなかったのです。抜いた毛の本数もさることながら、自分の髪の毛の実情と未来像を見せつけられた思いがしたことと同情します。心なしか地肌もすけて見えるようになり、「これなら、育毛剤の臨床試験もできるじゃん・・・・」というギャグも不発に終わってしまいました。だれも笑わず、本人も落ち込んだままでした。ヤレヤレ!

実験のエピソード・その4

「培養皿の下にウシの眼のレンズカプセルを引くとよく毛包細胞が増殖する」という文献があり、「さっそくやってみよう!」と、屠殺場で三十個ほどのウシの眼球をもらってきました。眼がこちらを見ているようでなかなかの気持ち悪さ・・・・・。恐る恐る女性の研究員が手で持ってメスを入れてみましたが、中のカプセルは容易には出てきません。思いきってギュッと握ってみたところ、眼球の中身(黒くてドロドロしたゼリー状のもの)がブチョーッと一気に飛び出し、彼女の顔に命中しました。泣く泣く顔を洗ってきたところで、皆が「さすが、化粧を落とした素顔も美人やねぇ!」と慰めたのですが、ショックは癒えない様子。それ以降は皆、マスクをして作業をするようになりました。

実験のエピソード・その5

「育毛剤の実験に使う毛は“健常人の毛”よりやはり“脱毛症の患者さんの毛”がいいだろう」ということになり、桑白皮エキスで毛が生えたAさんに毛の提供をお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。和気あいあいとした雰囲気の中で、抜毛はスムーズに進んでいきます。ところが百本ほど抜いたところより、急にAさんの口数が減ってきました。どうしたことかとのぞき込むと、真っ赤な顔で汗びっしょり。そして、「やっぱりダメです!せっかく生えた毛を抜かないでください!」抜いた毛を頭に返してあげたくなりました。そんなわけにもゆかず、即座に実験は終了とあいなりました。百本は抜きすぎでしたかねえ? 六十本くらいでやめとけばよかった! ゴメンナサイネ!

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