3、よみがえる黒髪

『よみがえる黒髪』より

育毛効果の評価法

育毛剤は最終的に人に投与されるものであり、人に対して効果がなければ意味がありません。しかし、開発段階の薬剤をすぐに人の脱毛部に外用してその効果をみることができませんので、まず、実験室でできる次のような試験を行いました。

1、動物を用いた実験
  1. ウサギの毛周期変換能をみる試験

毛は成長期から退行期、休止期を経て再び成長期へという毛周期を繰り返しています。脱毛症では休止期が長くなり、成長期は短くなっています。そこで、この長くなった休止期を成長期に変換し、正常の毛周期に戻す薬剤があれば理想的な育毛剤といえるわけです。

本実験にはニュージーランドホワイト種ウサギがよく用いられます。このウサギは生後二十二週ごろ、すべての体毛が一斉に休止期に入り、五週間程度はそのままという特徴があります(すなわち、脱毛症とよく似た休止期の状態)。そこで、生後二十〜二十一週ごろ、背中を毛刈りして全体毛が休止期に入ったことを確認し、育毛効果が期待される各種薬剤を背中につけます。何もつけてない部分と比較して早く毛が生えてくれば、その薬剤は休止期毛を成長期毛に変換する能力をもっていることになり、育毛剤として有効であるといえます。

評価基準には次の記述がよく用いられます。

著効:無処置部と比較し、休止期が四週以上短縮
有効:無処置部と比較し、休止期が二〜四週短縮
無効:無処置部と比較し、休止期が二週以下短縮
  1. マウスの毛成長速度をみる試験

これはマウスの背中を毛刈りしてそこに薬剤をつけ、何もつけていない部分と比較して毛の成長速度が早くなるかどうかをみるものです。マウスが手軽に飼育できることもあって、以前からよく用いられている方法です。ただ、脱毛症では休止期が長くなっていることこそが問題であり、成長期の毛の伸びを促進しても臨床効果とはあまり結びつかないようです。

  1. その他

ヌードマウスという生まれつき毛の生えないマウスがいます。このマウスは毛がないばかりでなく、外界からの物質に対する拒絶反応もありませんので、その皮膚に人の毛を植え込むと生着します。この状態で各種ホルモン剤や育毛剤をつけるか注射するかして、人の毛に対する育毛効果をみるわけですが、何といってもこのマウスはひ弱で死亡しやすいので、その飼育が大変です。

2、毛の細胞培養系、器官培養系を用いた試験

これは比較的新しい育毛効果評価法です。これまで培養皿に移すとすぐに死んでいた毛の細胞が、培養技術の進歩により長期間飼っておけるようになったのです。動物実験と違って、人の細胞を使って実験できるのが大きな強みです。大きく分けて次の二つがあります。

  1. 細胞培養系

人の毛を抜くと下方部に白い毛包(最下部が毛球部)が付いています。これを輪切りにすると図のように毛の周囲に毛包細胞が並んでいます。この毛包を酸素を使って一個一個の細胞にまでバラバラにし、培養皿に植え込むのです。一週間もすると培養皿の底に敷石状の毛包細胞が見られます。

この培養液に育毛効果の期待される薬剤を入れてみて、毛包細胞の増殖速度が早くなればその薬剤は有効であると判定されます。毛包細胞が増殖すれば小さな毛包が大きくなりますから、小さな休止期毛包が大きな成長期毛包に変換されることを意味します。本法は短期間で結果が判明し、しかもその効果を定量的に数字で表現できることから、各施設で広く採用されております。

  1. 器官培養系

これは一本の毛を個々の細胞にまで分散することなく、一本の毛のままで培養します。そして培養液に薬剤を加え、毛が伸びる早さで育毛効果を見るものです。実際に人の毛が伸びるわけですからすばらしい方法のように思えますが、いくつか問題点があります。そのひとつは毛が伸びる期間が限定されていることです。わずか一週間で毛が伸びなくなりますし、その間の毛の伸びも1mmに満たないのです。したがってこれで薬剤の効果をみるには困難があります。さらにやっかいなことに、この器官培養用の毛は抜いた毛ではダメで、脳外科手術などで余った頭皮を分けてもらい、そこからハサミ、ピンセットを使って“毛包周囲の組織を付着させたままで採取した毛”でないとダメなのです。つまり、実験材料の確保が大変なのです。

そのようなわけで本法は現在ではまだ一般的ではありませんが、培養皿の中でどんどん何cmも毛が伸びるようになれば・・・・・と期待している次第です。

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